東京地方裁判所 平成4年(ワ)70229号 判決 1993年1月29日
原告 木村勝義
右訴訟代理人弁護士 立見廣志
被告 更生会社手塚興産株式会社管財人 田宮甫
右訴訟代理人弁護士 鈴木純
堤義成
主文
一 被告は、原告に対し、金三五〇〇万円及びうち金二五〇〇万円に対する平成四年五月三一日から、うち金一〇〇〇万円に対する平成四年六月三〇日からいずれも支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。
二 訴訟費用は被告の負担とする。
三 この判決は仮に執行することができる。
事実及び理由
第一原告の請求
主文同旨
第二事案の概要
一 争いのない事実等
1 原告は別紙目録≪省略≫記載一ないし五の約束手形(本件手形)を所持している(原告が本件手形を提出したことにより認められる。)。
2 訴外手塚興産株式会社(手塚興産と省略)は昭和五一年一二月一九日東京地方裁判所において更生手続開始決定を受け、同裁判所は昭和六〇年六月一四日訴外石田晴康を管財人に選任し、同月二一日その旨登記がされた。
3 石田は本件手形を振り出した。
4 原告は本件手形を支払呈示期間内に支払場所に呈示した≪証拠省略≫。
5 東京地方裁判所は平成四年四月一日訴外会社の管財人に田宮甫を選任し同月二日その旨登記がされた。
二 被告の主張
1 更生会社においては会社の事業の経営並びに財産の管理及び処分の権利は管財人に専属し(会社更生法五三条)、会社が更生手続開始後会社財産に関してした法律行為は更生手続の関係においてその効力を主張することができないところ(同法五六条一項)、石田は手塚興産の代表取締役でもあり、本件手形は同人が代表取締役として振り出したものであるから、右条項により無効である。
2 東京地方裁判所は手塚興産につき管財人が借入行為(会社更生法五四条三号)をなすには裁判所の許可を要する旨定めた(≪証拠省略≫。決定謄本)。本件手形振出行為は借入行為に該当するところ、裁判所の許可を得ていないから無効である(同法五五条本文)。
三 原告の主張
原告は本件手形取得当時、手形の振出につき裁判所の許可を要する旨の裁判所の決定があること及び右許可のないことを知らなかった。したがって被告は右無効を原告に対抗できない(会社更生法五五条但書)。
四 争点
1 本件手形振出行為は管財人の行為とみることができるか。
2 原告は本件手形を取得するに際し、借入行為手形振出につき裁判所の許可を要する旨の裁判所の決定があることを知らなかったか。
第三争点に対する判断
一 争点1について
≪証拠省略≫及び弁論の全趣旨によれば、本件手形の振出人欄には「手塚興産株式会社 代表取締役社長石田晴康」との記名捺印があること、石田は昭和六〇年六月一四日の手塚興産の管財人に選任されたこと、石田は同年一二月二六日同代表取締役に就任し、昭和六二年一二月二四日、平成元年一二月二五日各重任したこと、本件手形は石田が平成三年一二月から平成四年一月ころにかけて振り出したものであることが認められる。
右事実によれば、石田は本件手形振出当時、手塚興産の管財人としての地位と代表取締役としての地位とを兼有していたものであるところ、右肩書のみを根拠に更生手続上効力を主張しえない行為であると解することは行為者たる管財人及び相手方の双方の通常の意思に合致しないものと考えられるから、管財人の行為として効力を生ずる余地のあるものと解するのが相当である。したがって、本件手形の振出人名義の肩書が代表取締役であっても、管財人としての手形振出行為とみて妨げないというべきである。
二 争点2について
証拠によれば、次の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。
1 訴外会社はプレス機械の製造、加工、廃棄物の収集、処理等を業とするもの、訴外首都環境整備株式会社(首都環境と省略)は廃棄物の処理、分析、資源の回収再生等を業とするもので、両社は役員、業務内容、資産や設備の所在を共通にする関連会社である。
2 手塚興産は昭和五一年ころから過大な設備投資から経営悪化を来し、東京地方裁判所において更生開始決定を受けて再建を始めたが、その後首都環境に資金支援のために手形を振り出すようになった。
3 首都環境(取締役訴外赤穂章)は石田から本件手形を平成四年三月二〇日ころ取得したが、その際石田は赤穂に対し手塚興産は裁判所の指導監督によって運営されているし手形の振出も裁判所の厳しい管理下にあるが、本件手形は振出枠の範囲内であると説明していた。
4 原告は昭和四六年ころから首都環境からの手形の割引依頼に応じて割引をしてきたが、首都環境は昭和六一年春ころから手塚興産振出の手形を持ち込むようになった。原告は、従前手塚興産が会社更生開始決定を受ける前に割り引いたことがあったが、更生会社となったことを知ってからは信用に不安があったので最初は割引を断ったが、赤穂から、裁判所の許可を得た手形であるから一〇〇パーセント迷惑はかけない旨説明され、執拗に懇願されたため断りきれず、平成四年三月ころ、これを割り引いた。
右事実によれば、原告は本件手形を取得するに際し、手塚興産が裁判所の許可を得ているものと信じていたのであり、裁判所の許可のないことにつき善意で取得したものというべきであるから、会社更生法五五条但書により、被告は本件手形振出行為の無効を対抗できないことになる。
三 以上によれば、原告の請求は、理由がある。
(裁判官 河野泰義)